浜本君の500円プレゼントへの挑戦。

南海電車を降りて、天下茶屋から歩いてカフェまで。

時刻はもう終電の時間を迎えようとしていた。
突然、嫁からの電話。
彼女はいつも唐突なのだ。

「あ、もしもし?こうちゃん?あんなー」

彼女は早口で説明する。

「言うの忘れててん。500円プレゼントするからなんか用意してきてー」

な…なんだと!?
彼の心拍数は一気に跳ね上がる。

(500円プレゼント・・・?最近ないと思ってたのに)

彼は、星を見た。

(そうか。もう、最後やからか・・・)

感慨深いというのは、こういうことかと目を閉じた。

しかし。

感傷になど浸っている場合ではない。彼はいつだって今を必死に生きる男なのだ。
深呼吸をしてから、ゆっくりと目を開ける・・・

にぎやかな天下茶屋の駅周辺はひっそりと静まり返っている。
彼はこぶしを握りしめた。

「・・・どこも、閉まっとる・・・」

どうする?
どうすればいい?
こんな状況で・・・
500円プレゼントを用意できるはずがない。

彼は嫁に舌打ちをする。
なぜ昨日の時点でそのことをきちんと申し送りをしておかないのだ。

「いや・・・」

よそう。誰かを責めるのは。なにも解決などしない。
それに、極限の状態で500円プレゼントを用意することのほうが、
彼にとって喜びになるのだ。
そして、なによりもこれが最後なのだ。
誰もが目を伏せ、このプレゼントには当たりたくないと必死で願うことなど、
もうないのだ。

みんなのために。

彼は小さく頷いた。

みんなのために。

必ず、最高の500円プレゼントにしよう・・・!
思い出に残るほどの、プレゼントにしよう。
彼の脳裏には師匠のみうらじゅん氏がよぎる。

「先生・・・俺、やったりますわ」

彼は大きく一歩を踏み出した。

南海電車の自動切符売り場へ。
コインはもちろん500円。

「・・・ふ。ちょっきりは、ないんやな」

そして10円玉を付け足す。

最高の500円プレゼント。

南海電車 510円。
有効期限4月16日。

今日の最終電車が出発した。

「誰に、当たるんやろか・・・」

彼の足取りは軽かった。
can tutkuへ。
もうなんの効力もなさない南海電車510円の切符を
きれいにラッピングして走り出した。

みんなのために。

「待ってろや。みんな。ブーイングの嵐、まきおこしたる!」

その数分後、2000円近くのプレゼントを用意していた皿袋誠路は絶句した。

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